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なつき争奪 静留VS静姫








































 




「なつき起こしにいかな。」



静留が朝ご飯をつくり終えるころ、長年そうであったように今日もまた
なつきの起きる時間になる。




なつきの眠りは深くない。

触れる程度なら少し反応するくらいだが
声をかけでもすればすぐに、少しだけ眉間にしわを寄せてすんなり目を覚ます。
それから仰向けになって腕で目を覆い
すぐ行く、と掠れた声で朧気に呟く。

このとき、ふたりの意識はまるで交わっていないようで
目覚めたばかりのなつきの意識の中には
静留の気配があるだとか静留が待ってるだとか。
そんなふうに確かに私は存在している。

そんな曖昧な寝起きというものが好きになったのは、子どもたちが大きくなってからだ。





静かに寝室のドアに手をかけ、気をつかうでもなく音をたてるわけでもなく
ただ自然に寝室のドアを開ける。


「「っ…!」」


ふたり、全く同じ顔をして息を呑んだ。

ドアを開けたら人がいた、なんてよくある事だが
何度経験したって慣れるものではない。


「…おはよう、お母さん。」


そして驚いたその次に、相手を確かめるというのも至極当然のこと。
ほぼ同じ身長のその相手とは、確かめるまでもなく認識し合えてしまうのだが。

相手が分かった途端、すぐに”あぁ”とすべてを理解して笑みを浮かべる。
それは相手とて同じ。


もちろんこれが始まりの合図――








「おはよう。なつき起きはった?」
                (やってくれるやないの…)

「うん。相変わらずすぐに。」
               (残念どしたなぁ♪)

「そうどすか。ほな先に降りましょか?」
               (ふたりっきりにはせぇへん!)

「私は待ってます。やからお母さん先に降りとって?」
               (邪魔どすえ。)

「なつきはそっとしとき。」
             (絶対ゆずらへん…!)

「心配せえへんかてそっとしときます。」
               (こっちだって!)




    
      「「くっ…」」
    




青白い閃光がふたりの間に見えたそのとき。






      「しずる…」





「「!!」」



ふたりには、どんな喧騒からだって聞き取ることのできる声が
静かで熱い争いを止めた。


「なつき堪忍。うるそぉしてしもて…」


それまでの高揚が嘘のように、しゅんとして目を潤ませる静留。
でもちゃっかりなつきに近づいていくあたり。
…わざとだ。



「いや起きていたから大丈夫だ…。それより静姫の好きにさせてやってくれ。
 自分で起きない私が悪いんだ…」

「…分かりました…ほな待ってます。」



なつきに言われればなす術もなく、おとなしく部屋をあとにする静留。

   その後リビングに戻って、ひとりいじけていたのだとか。











◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇













「今日はいつも通り帰って来れるん?」


朝ごはんを終え、身支度を整えるなつきに静留が問う。


「あぁ。なるべく早く帰ってくるよ。」


ここしばらく、今までのように定時に帰ってくることはほとんどない。


「ほな夕飯作って待ってます。」

「あぁ、頼む。静留の手料理がいちばんだ。」

「そら気張らな。」



なつきが夕飯を家で食べることも減り
以前、会社での食事はどうしているのか訊ねたところ

―ちゃんと食べているよ。

とのことだった。
だが、この言葉が一番信用ならないことを心得ている。

だからこそ家で食べるときは、なつきのために手間隙かけて
最良の食事を用意したいのだ。
なつきが愛してくれる家庭という空間を
少しでも満たしてあげたいのだ。





穏やかな雰囲気が漂いはじめたリビング。





「お父さん」



しかしそれを遮るように、静姫が立ち上がった。



「私も作ります。」


「「「えっ…」」」



呼ばれてからずっとそうだったなつきに加え、それまで各々に活動していたふたりも
静姫を凝視して固まる。



「たまにはえぇやろ?」

「え、あー…」


様子を窺うようにちらっと静留を見るなつき。
もちろん静留は視線でNOと訴えるが
静姫に向き直れば、少しうるんだ期待の眼差し。



「なぁしず

「静姫?」


なつきが静姫に何か言おうとしたとき、いいタイミングで静留は割り込む。




あぁまた始まってしまうようだ…










「なつきは久々にうちで夕食食べはるんどすえ?分かってる?」
                            (それを狙ってるんやろうけど…!)

「えぇ分かってます。やから何か?」
                  (ふっ…チャンスは逃しません。)

「ちゃんとしたもん食べてもらわなあかんやろ?」
                     (”静留の料理は美味いな”…はうちの特権や。)

「私はお母さんに教えてもらってるんどすけどなぁ。」
                      (あなたの料理がマズい言わはるんなら別ですけど?) 

「まだあんたは”教えて”もらっとる最中やろ?まだ半人前や。」
             (やから余計あかん!うちと同じ味なんやからなつきが褒めへんわけない…!)

「”料理は愛情”やなかったん?」
              (愛なら負けません!)






          「「くっ…」」






いつものことだが、このタイミングでなつきは声をかける。





          「静姫。」




「あっ…?」


いつのまにか背後にきていて、肩をたたくなつきにきょとんとした顔で振り返る。


「今度、ふたりきりのときに、私のためだけに作ってくれないか?」


そこには、静かな決闘の間にきっちり服装を整えたなつきがいて
紳士的な笑顔でお願いされた。


「はい…///」


条件反射のごとく素直にそう静姫がうなずくと
なつきは静留に安堵の笑みを向けた。


静留と静姫はというと



("ふたりきり"て、なつきはほんまにそんなこと考えてはるん?!)

(そういえばお父さんとふたりきりになることって…ない?)




などと一日中悶々とすることとなったのだとか。












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