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なつ静

前回の幼稚園パロのシリーズもの
成長したふたり


あまりに静留が追うから、なつきが若干Sになってる…汗


































 


しずる


と確かあの人はそう言った。
初対面にも関わらずずいぶん失礼な人だと
子供らしい尖った態度をとったように思う。


そこからどう、そういう風になったのか覚えていないが
”なつき”と呼びたくて、でもなかなか呼ぶことのできないもどかしさに
じわりと涙を浮かべるくらい、なつきのことが気になってしょうがなくなった。


ようやく”なつき”と呼び捨てにできるようになった頃には
ほとんどふたりでいるようになっていて
初恋、というものを自覚していたが
それでもまだなつきのあとを追っているだけで、特別扱いなんて夢のまた夢。

もともとなつきはひとりでいることが多かったし、あまり喋るほうでもなく
どちらかといえば冷たい印象があった。
だから余計に嫌われるのがこわくて
思ったことをなかなか口にできなかった。


そんな臆病な自分が耐え切れずに何かしたのか、はたまたなつきが見かねたのか。
場所も状況もまた覚えていないが
困ったように笑って、この手をとってくれたことだけははっきり覚えている。


それからはもう
なつきがおらんなんてありえへん!
くらいべったりで、ふたりでいるところを邪魔してくる子がいようものなら
友達だろうとなんだろうと、藤乃仕込みの愛想のよさで追い払った。
はじめのころはなつきのほうがよく困っていたものだ。







「なつき。」


卒園してから12年。
やっぱりまだ、なつきからは1度も離れたことはない。
今だってこうしてクラスの座席も前後で、行きも帰りも一緒。
席替えに関してはくじびきで公正に行われているのだが、不思議といつも近くになる。
休みの日も、家の用事がないときはなつきと過ごしている。

幼稚園にいる間だけ、なんて制限がなくなって
昔よりもっと我侭になってしまっているのは確かだ。


「ん?」


前の席で真面目に自習をしている綺麗な背中をシャーペンでつっつきながら
まわりの迷惑にならないように極力小さな声で呼ぶと
なつきも疲れてきたころだったのか、集中の切れた顔で振り向いた。



『呼んだだけどす。』


袖をひっぱって引き寄せて、耳元に寄せた口を手で隠しながら囁いた。


『飽きたの?』


なつきはくすくすと笑って、同じように囁く。


『勉強より気になるもんが前にあったから。』

『ほこりでも付いていたか?』

『っ~~…ほんまいけずなんやからっ…』

『だって静留が可愛いから。』

『あほっ…///』



静かな教室で、ほかの誰にも聞こえないように。
たったひとりにだけ聞こえるように。
だけど感情の起伏はきちんと伝わるように。


そんな会話を続けていくうちどちらも
言い終わったら自然と耳を向けて相手の声を待つようになっていて
それがまた、この人に囲まれている状況でさえ、ふたりだけの空間をつくっているようで
なんとも言えない優越感を味わっていた。











◇      ◇      ◇      ◇














「なぁ、なつきはもう大学決めたん?」


結局、あの非日常的な会話は授業時間の最後まで続けられて
たのしかったな、なんて帰り道で笑い合った。


「あぁ、決めてるぞ。」


ひとしきり笑い終わり冷静になった頭で
昼間、出会いを思い出したきっかけを思い出した。

志望校。
受験生となった今、それが重い鉄のカーテンのように目の前にそびえたっている。



「そうなん…。」

「…おい。まだどことも言ってないのにそんなに落ち込むな。」

「どうせ、なつきにはうちの気持ちなんか分からへんもん…」


俯いて明らかに落ち込んだ態度をとる。
短くあきれた溜息をつくなつき。


「拗ねるなよ。」


なつきはうちのことをよく理解している。
思っていることのほとんどを察してくれる。
それでも、なつきには分からないと思うのだ。
この不安は。



「やかて…」



いつもなつきは前を歩いていた。
引っ張っていくのはいつもなつきのほうで、その背に全てを委ね、甘んじてついていっていた。
呼び方ひとつでさえ、この身を焦がした人だ。

精一杯、恋した人なのだ。

けれどなつきはそうではないだろう。
元々こちらが先に、想いを寄せていたのだから。



想像もつかないほどの恐怖なのだ。
なつきと離れてしまうことは。

追いかけていないと、どんどん先へ行ってしまう人だから。
もしこの手が離れてしまったら、もう息の仕方さえ分からないくらい、依存している人だから。



「嫌やもん…」

「はぁ~…」


今度は大きな溜息をつくとそれ以上何も言わなかった。

















「ほな、また明日…」


そしてそのまま、いつもなつきと別れる住宅街に着いてしまっていた。
たまにここで別れることなく、どちらかの家にいくこともあるのだが
あいにく今日はそんな約束はしていない。


「静留。」

「え…っ!」


そう思ってすぐに方向を変えたのだが
急に腕を引かれてそのままなつきの腕の中に捕らえられた。


腰を強く抱き寄せられているせいか、その…



「ち、近いてなつきっ…!」



見つめてくるなつきの顔が近い。
精一杯のけぞってみるが、片腕をひっぱられているので
なつきが離れてくれないかぎり、こちらからは離れることができない。



「大丈夫、誰もいない。ここは人通りも少ないし。」

「せやけど…っ///」



こんな至近距離で会話を続けられても、内容など入ってくるはずもない。
このままキスされてもおかしくない状態なのだから、そればかり意識してしまう自分は
決して間違っていないと思う。


でもなつきはいたって真剣で、いつまでもじたばたとしているのも気が引けて
おとなしくその瞳を見つめかえすことにした。

するとすぐに掴んでいた手を解き、腰に回していた腕の力も緩めてくれたので
先ほどまでの緊張も解けて、すこし安心した。



「お前は誰のもの?」



しかし、それを見計らったように唐突に訊かれて、少し戸惑った。



「そ、れは…」



うちもなつきもお互い”付き合ってください”なんて言った事はない。
自然にそうなっていたというか、元々そうだったというか。
きっと恋人と言っていい関係なのだが、はっきりそうだと言える確証もなく
前々からこの関係の結論を疑問には思っていた。

それでも自分はなつきのものだと思っているが
はっきりしない状態で、本人を目の前にしてそんなことを言える人が
果たしてどのくらいいるだろうか。




”静留は私のだ”
と、たしかになつきも、幼稚園のころからそう公言してくれている。

しかしよく考えるといつも、強くは出られない自分が誰かを振り切れずに困っているとき
庇うようになつきはそう言ってくれた。
つまり、直接自分自身に言われたことは1度もないのだ。

だから違うと言われるのが恐くて、今まで確かめなかった。



だが、どうせ嘘はつけないだろう。




「なつき…だけ…」



なつきの目を見て、探るように答えた。



「そう自信なさげに答えるな…。」


なつきは呆れたように笑って、もう一度しっかり抱きしめた。



「私はお前の行く大学の、お前の行く学部に行くことにした。」

「え?!」


なつきの発言に驚いたのは一瞬。




「所有物は手元にないと不安だろう?」



かかる吐息に、もう耳まで真っ赤になっていることだろう。


そんななつきの意地悪が、存外嫌いではない。



「だからお前は安心して好きなところへ行けばいい。私というおまけつきでな。」

「おまけなんて…むしろメインどすえっ…」


今度は自分からしっかりと腕を回すと、少し照れくさそうに



「それはよかった。」



と笑った。





いつもそう。
なつきのちょっとした意地悪は口調もどこか控えめで
やったあとに”ごめんな”と情けなく笑ったり、照れくさそうに微笑む。
そんななつきを見ては、やっぱり優しいと微笑み返さずにはいられない。


そしてそれと同時に、なつきは恋人だと、たしかにそう感じるのだ。


























しずる


と確かあの人はそう言った。


あの人は今でもそう呼ぶ。
初対面で呼び捨てにしてきた理由は
この先の、長くなるであろう共にある日々の中で
いつか訊きたいと思う。

そしてできればその日々で


なつき


とあの人を呼ぶのは
うちだけであってほしいと思うのだ。





だってそれが











恋人の特権でしょう?











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