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めーさく






 









 


















紅は嫌いだった。





         血の色だもの。

   どんな色に紛れていたって目立ってしまうもの。





だから、嫌いだった。



















怖かった。











◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇















あの妖怪はどこまで私を受け入れてくれるだろうか。

あの妖怪はいつまで私を見ていてくれるだろうか。

あの妖怪の紅は








怖くないだろうか。







最近そんなことばかりを考える。
メイドとして失格だ。
主のことだけ考えなければ。

私は完全で

瀟洒なのだから。








「咲夜。」

「なんでしょう?」


紅茶を主の前に置くと、かちゃりとスプーンの音。
わりとこの音は好きだ。


「お前は、気づいている?」


ふわりと薫る匂いも
味を損なってはいないか確かめる大事な鍵。


「何に、でしょう?」


色もいい。


「あれがここへたどり着ける確率。」


考える間もなく外から大きな音がする。
またか、と窓を見れば
『あれ』がこちらへ飛んできている。


「いいえ。決まっているのですか?確立。」


お嬢様へ移した視線をもう一度窓の外へと向ける。
とらえた姿はずいぶん大きくなっていた。


「今日も美味しいわ、紅茶。」

「ありがとうございます。」

「……。」


何事もなかったかのように紅茶に集中する主。
こんな迷路のような会話も
もう慣れたものだ。


さぁ、お嬢様の一言があればもう大丈夫。
今日の紅茶も完璧だ。


「……。」

「………。」


沈黙の間にも、香りは部屋を彩る。


「あれ。」


言われて確認した先に
『あれ』の姿はもう見えない。


「今日の確立は100%だったわ。」


カップを置く音も
好きな部類かもしれない。


「なぜ、とお訊きしても?」


素直に訊くのがこの方には一番だ。
この幻想郷では、見た目と年齢とは人間のそれには一致しない。
人間と違って、種族によってずいぶん成長速度は違う。

正直すこし厄介だ。



「ちゃんと知ってるのよ。…あの門番。」



”門番”
なんて浮かぶのはあの妖怪だけ。
ここまでくるともう溜息が出そうだった。
一体思考のどれだけをあの妖怪が占めているのか。
できれば知りたくはない。



「何を知っているのですか?」


一日中門の前いるような者が。
知っていることなどそうないだろう。



「一日中門の前で突っ立っているくせに」

「はい。」

「それどころか居眠りもしょっちゅうだし」

「ええ。」



紅茶の水面を見つめて伏目がちになった顔は
どこか憂いを含んで。


「毎日顔を合わせるわけでもないのに」

「はい。」



きっと忘れないだろう。



「腹が立つくらい」



このとき感じた









「すべて。」






重さを。










「お嬢様…」


何かを哀しんでいるようだった。
でもそれが果たして何なのか。

まったく思い当たらないわけではない。
しかし所詮、人間の頭でどんなに考えても
何百年も生きてきたその中で
どれだけのことを経験し、どれだけの傷を負い、どれほどのことを思うのか
到底想像し得ないだろう。



「幻想郷のことだとか紅魔館のことだとか、そんな大層なことだけじゃない。
 フランの機嫌だとか、私の機嫌だとか、お前の体調だとか…とにかくすべて。」


淡々と、しかしゆっくりと語られる。


「そして何かひとつでも”あれ”によって害されるものがあるならば…絶対にあの門を通しはしない。」


そこで顔を上げ、まっすぐ前を見つめる。
傍に立つ私とはまだ目を合わせることはないが
先ほどの憂いは少し消えていた。



「雨の日はあの音で、私の意識が外へ向かないように。」


確かに雨は、お嬢様にとってはその存在にすら気づきたくないものだろう。



「誰かの機嫌が悪いときは、余計に損ねないように。お前に負担がかかってしまうからね。」

「私、ですか?」

「そう。お前の体調が少しでも悪い日は、あれが近づくことさえ許しはしない。」



これには驚いた。

と同時に罪悪感がこみ上げてくる。
まさか美鈴がそこまでしてくれていたなんて。

雨の日は魔理沙が来ないから静かなのだと思っていた。
体調の悪いときだって、だれにも気づかれないようにしていたのに。



「優しい妖怪…。特にお前にはね。」

「そんなことは…。」 



ない、と思う。
だって美鈴は誰にだって優しい。
誰のことだって気遣う。



「あるさ。お前は美鈴の”特別”だよ。」


悪戯っぽく笑ったお嬢様からは、すっかり先ほどまでの暗さは感じられなかった。


「そうでしょうか…」



そうであってくれたらいいと思う。
もし今は違っても、いつかなれればいい。



「そうさ。」



そこで初めてお嬢様は横目で私を見た。



「お前は結局最後まで…」



お嬢様の綺麗な口元は
まだわずかに笑みを浮かべていたが











「心を許しはしなかったのに。」









その瞳はどこまでも冷たかった。

















◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇












「美鈴。」



昼間お嬢様に言われた言葉は、いつまでも胸に刺さったまま
何をしていても私に鈍い痛みを与えた。

どうしてもその痛みを取り除きたくて
でもたったひとつしか方法を知らない私は

彼女と向き合うしかない。



「なんでしょう?」


夜中だというのに眠そうな素振りも見せず
小さくノックしたドアを開けてくれた。
視界に入ってきた美鈴は思っていたより高くて
少し、驚いた。


「ごめんなさい、寝てた?」

「いいえ。どうぞ入ってください。」


ドアを押さえる美鈴の横を通って数年ぶりに入った部屋は
昔となにも変わっていなかった。


「変わってないわね…」


家具の配置も、匂いも。
すべてそのまま。


「あぁ…そうですね。」


特に変なことを言ったつもりはなかったのだけど
美鈴はどこか困ったように笑った。

でもきっと触れてはいけないのだろう。



「ところで、何か用ですか?」


すぐに元に戻り、いつものように優しく問いかけてくれた。


「あぁいえ、そういうわけではないの。ただ話がしたくて。」


そうただ

なにかを取り戻したくて。



「おや珍しいですね。でも嬉しいです。」


どうぞ、と椅子へ促されおとなしくそこへ座る。
昔は大きかった椅子が、ちょうどいい大きさになっていた。


あぁ変わったのだ、自分は。



「何か淹れましょうか?」

「ううん、いい。」


返事を聞いて私の正面に座る。


「…懐かしいですね。」


それからしばらく私を見つめてそう言った。


「…そうね。」


静かな流れが心地いい。


「ねぇ」


こんなふうにずっと話していてもよかったのだが
懐かしさにひかれて席を立つ。

向かうはベッド。



「このベッドもそのままね。」


サイドに腰掛けてその肌触りを思い出す。


「はい。寝てみますか?」


美鈴にとっては軽い冗談だったのだろう。


「そうね。」


と私が返したものだから心底驚いていた。



「あぁでもどうせなら…」

「?」


そんな美鈴を見ていたらふとあることを思いつき
その手を引いてベッドサイドに座らせる。


それから何も言わずに、私は懐かしいベッドに寝転んだ。


「えっ、ちょっ咲夜さん…?!」

「いいから、黙ってなさい。」

「黙ってって…これ…」

 


美鈴のひざを枕にして。





「妹様はいつもこんな気分なのね。」


思ったとおり。
はじめて借りた美鈴のひざは
しっくり馴染んで心地よい。


「どんな気分なんですか?」


苦く笑って、いつも妹様にするように
優しく私の髪を梳きながら問いかける。


「少なくとも嫌な夢は見なさそうな気分。」

「そうですか…。」


やっぱり美鈴は苦く笑って、髪を梳きつづけた。
その手のなんと優しいことか。


「眠いわ美鈴…」

「もう、部屋に戻られたほうがいいんじゃないですか?」


そういえば、ここしばらくあまり寝ていない。


「動きたくない…」


そのせいか、こうして横になってみるとなんだか体が重い。


「しかたないですねぇ…。」

「めいりん…」

「あとで部屋まで運んでおきますよ。」

「ん…」


強請るように呼んだらすぐに返した美鈴は
仕方ないなんて言いながら、はじめから私の好きにさせてくれるつもりだったのだろう。
 

「咲夜さん。」

「……なに…」

「おやすみなさい。」

「………。」

 

口を開く気力さえなくなった体で
おやすみの代わりに、きゅっとズボンを握った。











◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 







 





「咲夜さん、少し働きすぎではないですか?」

「それは嫌みかしら?」


何年かぶりに自分から会いに来た美鈴は
少しやつれたようにも見えた。


「そんな…ただこれまでになく疲れているようなので。」

「私にはそうは見えないけれど。」


そんな美鈴が何の用かと思えば、他人の心配。
相変わらずだ。



「昨日私の膝で寝たんです、あの咲夜さんが。私の前で寝てしまうほど疲れていたんですよ。」


苦笑とも自嘲とも取れる笑みは以前にもよく見たものだ。
咲夜の話をするとき

必ず見たものだ。



「咲夜は変わったわ。」



あなたは何も変わっていないけれど。



「はい。お嬢様に出会われて随分笑えるようになりました。」

「悔しい?」

「いいえ…私には到底出来なかったことです。お嬢様に対抗しようなど、思ったこともありませんよ。」



たしかにここに来て、咲夜よく笑うようになった。
美鈴に向けられるようになったのはごく最近だが。

咲夜は変わった。
この数年で大きく。
しかしその前からずっと、すこしづつ変わり続けていた。
いい方へ。

それは誰から見たって
あなたのおかげだというのに。



「そう。じゃあ来週からしばらく休ませるわ。お前もね。」



そろそろ気づかなくてはいけない。



「えっ…私もですか?」

「せっかく休みを与えても、本人が休まなければ意味ないでしょう。
 来週は門じゃなくて、咲夜を見張ってなさい。」



咲夜はあなたの愛に。
あなたは、咲夜の想いに。



「確かに咲夜さんなら、働くなと言っても働きそうですね。」


そこでようやく肩の力を抜いて、美鈴は笑った。
それから部屋を出て行く背中を見送って
それはあなたも変わらないのだけど、と零した。

メイドも門番も365日必要な従者である。
もちろんシフト制であるから休みを取ることはできるが
メイド長と隊長となれば別。

しかも咲夜はメイド長になってからというもの、休めといっても休まず
美鈴にいたってはせっかく休みを与えても、いつの間にか誰かの手助けをしていたり
フランと遊んでいたり、厄介ごとに巻き込まれていたり。
その性格故に、休めていないと思う。


とにかくこれでゆっくり体を休めてくれるといい。
そしてできれば








望んだとおりの運命に。















◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇












「分かりました。それで、具体的にはどのくらい休みをいただけるのでしょうか?」


今朝目が覚めると、私はきちんと自分のベッドに寝ていた。
あとでお礼を言いに行かなければと思ったのだが
いつもよりお嬢様の目覚めが早くタイミングを逃していた。

そして、珍しく館内で美鈴を見かけたと思ったらお嬢様に呼ばれ
美鈴との休暇を言い渡された。



「2週間から1ヶ月ってところかしら。」

「1ヶ月?!」

「あら不満?短かったかしら。」

「お嬢様っ」



私をからかうときのお嬢様は本当に楽しそうで
無碍に”やめてください”とも言えないのが困ったものだ。


別に1ヶ月休むということにはなんの異論もない。
お嬢様が私を気遣ってくださってのことだ。

問題は美鈴だ。




「美鈴とでは嫌?」

「嫌ではないですが…」



嫌だなんてあるはずはない。
むしろ嬉しい、と思う。
ただ不安のほうが大きいのが事実だ。


未だに距離をはかりかねている。

また傷つけはしないかと、そればかりが頭をよぎる。




「大丈夫」


そんな私の心はお嬢様にはもちろんバレているようで



「美鈴は人間のメイド長にベタ惚れだから。」



とんでもないことを言ってくださった。



「いい機会じゃない。過去のすれ違いを正す。
 気になるのでしょう?あの妖怪が。お前が人前で寝るなんて初めてね。」


驚く私に追い討ちをかけるように、にやりと笑う主は
やはり見た目不相応だ。



「…美鈴から?」

「ええ。」

「そうですか…」



一体どんな話をすればそんな話題になるのか。




「用事はそれだけ。行っていいわ。」




最後まで
主の顔は晴れやかだった。













 

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Comments
無題
初めまして!!春うさぎっていいます。

東方サーチから、めーさくが好きでやってきました。そして「優しい紅 上」を読ませていただきました。・・・続きがとっても気になる作品です。これから、この二人はどうなっていくのか楽しみです!!
Posted by 春うさぎ - 2010.03.18,Thu 21:49:07 / Edit
Re:
返信遅くなってすみません!
はじめまして、ありがとうございます。
いま少し忙しいもので間が空いてしまいますが、優しい紅は最後まで構成は出来上がってるので、時間さえあればきちんとあげられるので安心してください。
って言ってる自分がいちばん信用ならねぇ…orz
大した内容じゃないですが気長にお待ちください。
Posted by - 2010.03.25 at 22:40
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