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なつ⇔静 前提の 奈緒静←なつき
奈緒は会話だけ出演
決して言えはしないのだが
それでもつい、すぐそこまで湧き上がってきてしまう。
その名は痛いくらいに知っている。
でも、決して呼ばない。
名を呼ぶということは
存在してしまうということ。
これはただの勘違い。
存在など、しない。
携帯のランプが光った。
着信音がないということはメールだ。
正直、開く気にならない。
それくらい疲れきっているのだ。
今の私は。
ずっと独りだ。
あの時からずっと。
唯一傍にいてくれたかもしれない彼女は
今はもう遠い。
それでいい。
それが私の望んだことなのだから。
~~~♪♪
今度はランプとともに電子音が響く。
あぁ気だるい…
「もしもし…」
そうだ相手を確かめるのを忘れていた。
『久しぶり。』
よかった。
よく知る声だ。
「…奈緒か」
『”奈緒か”って、ディスプレイ確かめなかったの?』
「ああ、すまない…」
『別に謝らなくたって……なんか疲れてない?』
弱弱しく答える自分と対照的に
テンポよく話す奈緒。
彼女はとても敏感な子だ。
どんなに強がってみせたって
結局一度気にかかったことはほっとけない。
不器用に手を差し伸べる。
そんな優しい子。
「そうだな、仕事が忙しいんだ…。」
『はぁ…あんたはすぐ寝るのも忘れるんだから。ちゃんと休みなさいよ?』
「あぁ。」
『ほんとに分かってんの?今度静留と確かめに行くから覚悟しときなさいよ。』
「おいおい…。私はちゃんとやってるよ。」
素直に優しさを口にできないところが幼さを感じさせて
まるで子どもを見守るように可愛いなと思ってしまう。
だからこそ、苦しいのだけれど。
『ちょうど今度行くからって言おうと思って電話したの。最近会ってないでしょ?
あんた会うたびに痩せていくんだからあんまりほっとけないし。いつなら大丈夫?』
「私だっていい大人だぞ?死にはしないさ。」
『とにかく、いつがいい?私たちは今週も来週も大丈夫なんだけど。』
「じゃあ土曜日にでも来てくれ。早く会わないとうるさそうだ。」
『まったく、こっちは心配してやってんのに…。じゃあ今週の土曜に行くから。』
それからまたねと言って会話は途切れた。
私と奈緒は理解し合えているようで
いちばん深いところは理解できていないと
そう思う。
どちらかと言えば奈緒もまた
静留に近い子だと思う。
綺麗な愛を持っている人。
本当の孤独を知らない人。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「また、痩せてますえ…」
彼女は私を見て一言そう言った。
宣言通りやってきた来客は静留だけだった。
どちらかといえば静留が来ないことはあっても
奈緒は絶対来るだろうと思っていたのだけれど。
「そうか…」
「えぇ。」
懐かしい沈黙だった。
お茶を置く音さえ響くような、静かな。
「顔色もよぉない。」
「そうか…」
「えぇ。」
ただ少しぎこちないけれど。
「奈緒が来なくてよかったな。」
「そうやね。そないななつき見たら、怒りはったやろね。」
くすくすと笑い合って、また黙る。
「でも、お前はいつも何も言わないな。」
「あの子が言うてくれはるから。」
「そうか…」
「えぇ。」
そんなことを繰り返して、少しずつ思い出す。
私と静留はどんなだったかと。
「でも今日はあの子ぉがおらへんから、言ってもええやろか?」
「…あぁ。」
私たちの会話は決して長くない。
訊きたいことがあるときは、どちらも少しひかえめに尋ねる。
そしてどちらも一呼吸おいて受け入れる。
一呼吸おいて話しだす。
「生きて…」
それは思いのほか弱い声だった。
「死にたいんなら……」
「静留…」
涙を堪えているのがすぐに分かった。
もういいよと止めてやりたいけれど
もうこの手を伸ばす気力さえ沸いてこない。
「うちがっ…」
伝う涙から目を背ける気すらおこらない。
「うちもいっしょに死にます……っ」
歪む視界を閉ざす強さもない。
「静留…」
ふたり涙を流す姿はなんと滑稽か。
しかしそれがきっとふたりのあり方。
どんなに滑稽でも、本心を隠し通してうわべの平穏を守る。
「そない弱ってまで、そない青白い顔で笑ってまで、なんでひとりなん…っ」
ただ、静留は少し下手になったようだ。
「うちはっ」
「静留っ…!」
ここ最近で一番力の籠もった声だったように思う。
響きはしなかったが。
「奈緒はお前を愛してる……お前は奈緒を愛してる。ただ、それだけだ。」
そうそれだけだ。
自分に与えられてきた愛が、どれだけ温かいものだったのか。
自分が一度は拒絶した愛が、どれほど綺麗だったか。
自分がどれほど愛されていたのか。
静留の傷が癒えるのを。
奈緒が無邪気に笑うのを。
静かに見守っていたい。
ただそれだけだ。
「静留…」
私が
「はい…」
「あ、した…奈緒と来い。…待ってる。」
愛しているからではない。
「必ず、来ます…」
「そうか…」
静留が
「えぇ。」
まだ私を愛してるなんて思っているからではない。
これは愛ではない。
だって私も静留も愛していなのだから。
どこにも存在しない。
存在してはいけない。
あいしてる
浮かんだのはきっと
どこかで聴いた歌詞だろう。
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