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静留が嫉妬する話。
つなぎ用に書いたら意味のよくわからない方向に…

まぁ嫉妬するだけムダだよね、このふたりは。
































『モテる』
とは果たして本当によいものだろうか。

そんな質問をされたなら
後ろから抱きすくめられ、その肩に愛しい重さを感じる彼女はこう言うだろう。


”たったひとりになら、いくらだって”


とね。






















亜麻色の髪を持つ彼女には今
ひとつの悩みがある。
それは例のごとく、あの蒼い髪を持つ彼女についてだ。






”静留”と呼ぶ声に穏やかさが混じるようになったのは
いつごろからだったか。
まわりも口をそろえて言うのだ。
丸くなった、と。

それはとても喜ばしいことで、静留自身も望んでいたことではある。
だがそれにしても、だ。
人当たりがよすぎるんじゃないだろうか。

たとえるなら、紳士。
大学での彼女の評判もとてもいいと聞いている。

元々ひどく優しい人なのに
ちょっとした歪みがそれを隠してしまっていたのだということは
静留が一番よく知っている。
しかしここまでの穏やかさを兼ね備えていたなんて
まったく予想外だったのだ。

だから


「なん、これ……」


そのモテようといったら予想をはるかに超えていた。



静留が手にしているのは携帯。
なつきの、だ。

持ち主は入浴中だが、ついさきほど
リビングに置かれたこの携帯から着信音が鳴り響いた。
なつきが上がってきてから報告しようと思い、そのままにしておいたのだが
その後2回、あまり間隔を空けずに着信があったので
なにか急ぎの用かと着信履歴を確認したのだ。

それは特別なことではない。
いつもしていることで、なつきも”頼む”と静留に任せているくらいだ。

自ら携帯を見ようと思ったことはない。
静留となつきにとって、それがいかに無意味な行為であるかということを
お互いによく理解している。


だが今回ばかりはそうもいかなかった。



「静留、あがったぞ。」


何も知らぬなつきが、うつむいて動かない静留に声をかける。


「静留?」


だが一向に反応がない。


「おい、静留。」


泣いているのだろうかと心配になって
彼女の傍に近寄る。


「なつき…」


静留、ともう一度その名を呼ぼうとしたとき
逆に少し低い声で呼ばれた。


「どうしたんだ?」


いつもとは違う雰囲気を察して
手をのばしたそのとき


「なんで…な、んでっ…!」

「おい静留っ!どうした、何があった…!」


キッっとなつきに向き直り、なつきのTシャツの肩口を掴むと
なつきを激しく揺り動かし、今にも泣きそうな顔で必死に何かを訴えてくる。
なつきは突然のことに事態を飲み込めずにいるが
とにかく切羽詰った彼女の不安を取りのぞこうと
力いっぱいに抱きしめた。


「落ち着けっ…静留!私はここにいる…お前の傍にいるから…!怖いものはなにもないっ…
 大丈夫だっ静留…大丈夫だから、はやく…私のところへ帰ってこい…っ」


大丈夫
傍にいるよ
と、腕の中で暴れ続ける静留にただひたすら囁き続ける。

しばらくそうしていると、少しずつおとなしくなった。




あるのだ
今でも。
時折こうして。
壊れたように狂うときが。

原因はいつも私だ。
でも静留を壊してしまうのは、シャボン玉が弾けるほどのとても小さな衝撃で
私はいつも弾けるまで気づかない。

そしてこんなふうに一心不乱に、何とも分からない感情を吐き出す姿を見るたび
まるで静留が私を置いて
自分独りの世界へ行ってしまったようで

とても


哀しい。



「静留、しずる……」


腕を緩めて、彼女の顔が見えるように少し離れる。


「な、つき…っ」

「大丈夫、ここにいる…。どうした?何かあったのか?私が何かしたか…?」


まだ冷静さを取り戻せていない静留に
出来るだけ優しく問いかける。

それに小さく首を横に振って否定する。


「そうか…。さぁ今日はもう寝よう。明日ちゃんと話そうな?」


今度はコクンと小さくうなづいたので、手をひいて寝室まで連れて行った。
こんなときの静留は、まるで幼い子どものようだ。


「なつき…」


ベッドに入りいつも以上に密着して寄り添うと
それまでおとなしかった静留は、すぐに首に腕をまわし
いつの間にか、なつきを組み敷くように体制を入れ替えた。

怯むことも驚くこともなく、見下ろしてくるその頬に手を添えて
その名をゆっくりと静かに呼ぶ。
何度も。何度も。

そうすると次第にその顔はなつきと同じ高さまで下がって

そして声もなく泣くのだ。
泣きつかれて眠ってしまうまで。


哀しみだけ、なつきに染みわたらせながら。

































次の日、2人は目を覚ましても抱きしめあったまま
離れようとはしなかった。
言葉を交わすわけでもなくただ互いの存在を感じていた。

それから静留が少し離れて
なつきを見上げたのが合図。


「もっと…かまって…」


小さく呟いた彼女は、可愛い、なんて思えないほど
苦しげだった。


「…しずる」


なつきは大学に入ってからというもの
休日以外はなかなか、静留とゆっくり過ごす時間をとることができない。
一方静留は、大学を卒業して以来
藤乃と縁の深い人物のもとでお茶の稽古を手伝っているが
比較的家にいる時間が長い。

今まで、自分の時間などほとんどなかった人だ。
そんな彼女だから、ひとりこの家にいる時間をどう使うこともできず
寂しさばかり募らせているんだろう。


「なんで、うちにはかまってくれへんの?なんで……他の子ぉに優しくしはるん?」

「え?」

「なつきの携帯、おんなの人の名前がぎょうさんありますやろ?履歴も留守電も、全部。」

「あぁ、そうだったかな…。」


確かによく電話がかかってくる気もする。
かかってきたものは一応出るし応対もする。


「うちにはかまってくれへんのに、ずいぶん他の子ぉにはかまってるみたいやし…。特に奈緒さん…」


昨夜、何度もあった着信を確かめようと携帯を開いたら
留守電が残されていた。
なつきに伝えようと聞いてみたところ

『この前はありがとう。今日もどう?』

簡単にいえばこういった内容のメッセージだった。

留守電の記録画面にはほかにもたくさんあった。
人の顔と名前を覚えるのが苦手ななつきは
自分の学部やゼミの人は名前を見てわかるように登録している。
だから静留にも名前の欄を見れば、それがどういった人なのかすぐに分かる。
なつきに気がある人。
なつきの携帯を埋めていたのはそんな人たちだった。

そんな中、いちばん目にしたのは
『奈緒』
という名前だった。


彼女はきっとなつきが好きだった。
今でこそ信頼に変わっているのかもしれないが
それでやはり、彼女の名を聞くと胸がざわつく。




「やきもち?」

と悪気もなさそうに聞いてくる。


「これは嫉妬どす。」

「一緒じゃないか。」

「ちがいます。」

「何が?」

「全然。」

「おい。」


息ぴったりのかけあいに、ふたり同時にふき出した。
ひとしきり笑って、なつきが言った。


「あのな静留。私はお前以外にかまうつもりはない。他のやつに付き合うのは、情報収集だよ。」

「情報収集?」


大学で必要な情報だろうか。


「あぁ、情報収集。どこに新しい店が出来たとか、あそこの店が美味しいとか。そんな情報をな…。」


体が悪そうに笑ったなつきは、やっぱり穏やかだ。


「店て…なんのためにそんな」

「お前と出かけるときの参考にだ。私はそういうのに詳しくないから……かっこつけたかったんだ。」


恥ずかしいのか、顔が見えないようにぎゅっと抱きしめなおされた。
大人になったと思っていたけど、ちゃんと可愛いところも残っている。
何より、自分のことを考えていてくれたんだと思うと嬉しくて
なんだかなつきのが感染ったように、照れくさい。


「かっこなんかつけんでも、なつきが連れて行ってくれるんやったら、どこでも嬉しいえ…」

「ん。でも毎回同じじゃ飽きるだろう?」

「なつきが一緒なら飽きひんよ。それより…」


自分のために頑張ってくれていたんだ。
そんな嬉しいことはない。
だけどもっと。
その分もっと。


「うちのことだけ考えて…うちだけかまって…もっと」


もっと


「うちだけをみとって…」



もっともっと求めて。
格好なんて気にならないくらい、他になにも考えられなくなるくらい
激しく求めてほしい。
常に見ていてほしいのだ、なつきに。
その瞳に映るのは自分だけでいい。

学生のころは不快だったあの好意の視線も
なつきにならいくら浴びせられてもいい。



「学生のころはお前のほうがモてすぎで困っていたのに、まるで逆だな。」


からかうように笑うなつきは機嫌が良さそうだ。


「なつきはめったに嫉妬してくれへんかったけどな。」

「私は静留しか見えてないからな。まわりの小石になんか気づくわけないだろう。してほしかったのか?」

「当然どす。」

「じゃあ今度からするさ。」



こんなふうにじゃれるように言い合って、のんびりと朝は過ぎていった。





それから午後になり
出かけた先で、なつきは”情報収集”の成果を披露した。



















なぁ分かった?
うち、モテてるやろ?なつきに。


モテる、てもちろんいいことだけやないよ。
嫌になるときもある。
でもな、モテたい人にモテることは何より嬉しい。
やからきっと








なつきにならいくらだってモテたい。






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